第6章-うつ病を抱えながら働き続ける9つのヒント(9/9)

ヒント9 劇的に変わろうとしない

「うつ病」を伴う働き方で変化の仕方に関するヒントです。

地球上のあらゆる生物にある特徴の一つとして、「恒常性(ホメオスタシス)」があります。これは、生体の内部や外部の環境因子の変化に関わらず生体の状態が一定に保たれるという性質のことで、人が健康に生きている上で重要な要素でもあります。例えば、体温や血圧などは何らかの作用で一時は変化をしますが、時間が経つと元に戻る性質があります。
「うつ病」も人間のこのような性質に根差しているような気がします。「うつ病」の極期を超えて、リハビリ、社会復帰と過ごしてくると、もう治ったのではないかと思うことが、度々あります。それが、多くの場合裏切られるのですが、その度に落ち込みます。
「うつ病」は急には良くなりません。調子の良い日もあれば、悪い日もあります。しかし、人はその状態が悪いと、劇的に変わることを願ってしまいます。この「劇的に」変わることを望む心が、大きな失望を生んでしまう要因なのではないでしょうか。

これは、ダイエットに例えると分かり易いのではないかと思います。ダイエットを始めた当初は高揚感もあり、どんどん減っている体重を確認するのが嬉しくなります。しかし、このように急激に痩せるように、なにかに縛られるとふとしたきっかけでリバウンドもしやすくなるのは、皆さん経験をお持ちなのではないでしょうか。これも、生体の持つ恒常性を軽視して、劇的に変わろうとした反動ではないかと思います。
「うつ病」は辛い病気です。ですから、早くこの状態を脱したい。そう願うのは当然だと思います。しかし、「うつ病」は劇的に変わりません。逆に劇的に変わったとしたら、その反動に十分注意してください。「うつ病」の状態をぐっと長いスパン(数年単位)で捉えると、それは明らかに良い方向に変わっていることに気が付くはずです。変化の仕方をはかる上ではこの長いスパンを意識することが、非常に重要なのではないかと思います。

如何でしょうか。ここまで9つのヒントをお話ししてきました。これは、私の試行錯誤によって現在感じているものです。何かの本に書いているようなこともあれば、逆に正反対のようなものもあるかもしれません。「うつ病」という病気は大変個人差が大きい病気ですから、すべて皆さんに有効であるとは思いませんが、「うつ病」を抱えながら働く上では、多かれ少なかれみんな考えてみる価値はあるヒントなのではないかと思います。「うつ病」を抱えながら働く。それは決して容易なことではありません。しかし、「うつ病」になってしまった以上、多かれ少なかれ「うつ病」を抱えながら生きていくのだと思います。どのように付き合っていくかを考えながら、皆さん自身の答えを見つけることが、重要なのだと思います。