第7章-おわりに

アビリティスタッフィング

「まさしく、塞翁(さいおう)が馬ですね」コンサルティング会社の時にお世話になった先輩コンサルタントから、今回の連載によせて頂いた言葉です。
塞翁が馬とは、「人生は吉凶・禍福が予測できないこと」の喩えです。その瞬間に悪い事があっても、それが後の良い事の種になることもあるし、今幸せであることが、後の凶事の原因になったりする。人生は先が見通せない。

私にとって、「うつ病」とはそうゆうものかもしれない。5年前、「うつ病」を発病し、どうしようもない不安・恐怖・自責感・自己嫌悪・希死念慮が、大切なもの(喜び・楽しみ・楽観・信頼・夢・希望など)を飲み込んでしまいました。まさに塗炭の苦しみを味わいました。しかし、その日々が今の私を支え、こうして皆さんにお話をさせてくれています。単に私はラッキーだっただけかもしれない。でも、私の5年間の思いはこうして話していることそのものです。

1970年生まれの私が20代のときにバブルが崩壊し、日本ではリストラの嵐が吹き荒れました。そのとき大手電機メーカーの若手社員であった私の前では、その会社に20~30年勤めた人たちがリストラで会社を追われていく、なんともいえない寂しい姿がありました。その時に私は頼れるのは自分だけだと強く思いました。人材市場において、如何に強く大きな堤防(スキル、経験、実績、人脈など)を築かなければ、生き残れないと思ってきました。そのような思いから常に焦り、常に前のめりで生きてきました。しかし、そういう生き方を見直すきっかけになったのもやはり「うつ病」でした。

この連載を始めたとき、多くの方から激励の言葉を頂きました。そのなかで一番多かったのは、「晃博の言葉は多くの人に勇気を与えると思うよ」という意見でした。今回、このアビリティスタッフィングのHPで体験記の連載の機会を頂きました。私が筆を取ろうとした思いは、一人でもいい…同じ苦しみを味わっている人に私の生きてきた軌跡を知ってほしい。それが5年前の私と同じように絶望に打ちひしがれている人の、ささやかでも道標になるのではないか…と思ったからです。

ここまで、私のお話にお付き合い頂きまして、ありがとうございました。「うつ病」でも転職できる。「うつ病」でも働ける。そんな、私の試行錯誤の日々をまとめました。少しでもみなさんのお役に立つことができれば、本当に大きな喜びです。私はこうして働いています。そのことが大きな意味を持つと思っています。今を大切に生きていきたいと思います。
この連載の企画を頂いたアビリティスタッフィングの皆様に感謝を致します。また、こんな私を応援してくれた友人たちや私の両親・妻の両親、そして何より絶望の淵から生還させてくれた妻と子供たちに、心から「ありがとう」と言いたいです。

最後になりましたが、みなさんの復活の日が必ず来ることを信じています。止まない雨はなく、明けない夜がないように、今の苦しみがいつか晴れる日が来ることを心から信じています。

2012年 初夏

鈴木 晃博