第6章-うつ病を抱えながら働き続ける9つのヒント(2/9)

ヒント2 現在に集中しよう

「うつ病」を患った人の心の置き方についてのヒントです。
「未来に希望を持ったり、絶望したり、過去の喜びとして振り返ったり、後悔したりする感情は人間にしか備わっていない能力であるといわれています。近年の脳科学の進歩によって、それに関係すると思われる脳の機能が次々と発見されているそうです。近い未来には、絶望感をもったり、後悔したりしたマイナスの感情を軽くする治療なども発達するかもしれません。
しかし、現在「うつ病」を患っている人にとってみると、不安や絶望や後悔は近々の課題です。これらの、感情は別に「うつ病」の病気だからなるのではなく、どんな人でも持っている感情です。ただ、「うつ病」の時には、そのような感情に飲み込まれてしまい、実際の生活に支障をきたしてしまうという特徴があります。例えば、不安感で人に会うことが怖くなってしまったり、後悔で何をする気力も失われてしまうなどです。
神ならぬ不完全な人間である以上、不安や絶望や後悔をしないで生きることは、不可能です。かといって、「どんなことも前向きに!」「ポジティブに!」「楽観的に!」などど、過ごしたくてもできないといのが、「うつ病」になった人の正直な気持ちではないでしょうか。また、そうなれない自分を卑下したり、焦ったりすることもあると思います。
私もそんな一人でした。しかしそんなときに、森田療法に出会いました。特に、森田療法を治療の中心に据えたことはなかったですが、考え方に共感を得ました。森田療法のエッセンスを煎じてしまえば、「あるがまま」になります。気分や感情にとらわれず、今自分がやるべき事を実行していくことの重要性を指摘しています。「今日は気分が悪いから、気分が晴れてからにしよう」とか、「不安だから会社や学校に行けない」「この不安さえなければ良いのに」など、「うつ病」が陥りがちな思考や行動に流されるのではなく、今日すべき仕事や目の前にある家事などを気分や感情にとらわれずに、行うことに集中するという姿勢です。

森田療法を知るまでは、「なんでこんなチャレンジをしてしまったのだろう」などの後悔やら、「これから先本当に家族を養っていけるのか」などの不安感をいつも持っていました。しかし、考えてみれば、過去は何をどうしようとも変えられません。また、この先の10年、20年など考えても明日生きている保証はないことを考えると、今ここにいるその瞬間の連続でしか人生はないのだということを思うようになりました。そう考えた私は、不安・絶望・後悔などの気持ちが湧いてきたら、「強制終了」をすることを心がけようとしています。もちろん、まだ完全に体得はできてはいませんが、病前に比べれば随分コントロールができるようになってきたような気がします。

この「強制終了」を行うコツは、今できる小さなことに集中することなのだと思います。この小さなことの価値などは全く考慮しなくていいと思います。歩いたり、書類の枚数を数えたり、掃除をしてみたり、何でもいいです。とにかく今できることに集中するのです。その作業の意味合いを問わず、その作業にひたすら取り組むと脳医学的には「作業興奮」というホルモンが脳内に分泌するそうです。騙されたと思ってやってみてください。不安・絶望・後悔などの感情は徐々に軽くなると思います。