2章-精神障がい者としての就活(7/7)
第7話 できることとできないことを聞かれる
二次面接の合格の連絡が来たのは、面接の翌日でした。
しかし、転職条件のすりあわせという仕事がまだ残っていました。面接の際に希望の職種や希望の年収などは聞かれましたが、それについて相談をしたいとの連絡だったからです。
このときは前回のマネジャー職と思われるお二方との面談でした。
聞かれたのは、「どのようなことができないか」という質問でした。これは、普通の転職ではない質問だと思います。これは「うつ病」という病気をオープンにしたからこそ、頂けた配慮です。「ノルマがある仕事はちょっと厳しいです」と答えました。(※1) 本来、この回答ならNGです。世の中にノルマの無い仕事なんてありません。どんな仕事であれ、それが対価をもらうものであれば必ず果たすべきノルマを果たす必要があります。
それに対し「仕事のスケジュールを守ることが難しいという意味ですか?」と確認されました。もちろんスケジュールがタイトであるとプレッシャーがかかりますし、けして楽観できるものではありませんでしたが、私の恐怖は営業の金額に対するノルマです。営業のノルマは相手に決定権がありますから、頑張ったからといって結果が伴うものではありません。しかし、内勤業務のスケジュールなら工夫次第でなんとかなります。それに、仕事をこなすスピードならある程度訓練でなんとかなります。「スケジュール管理でしたら得意分野ですから大丈夫です」と答えました。本当はこの回答も少し背伸びをしています。しかし、ここで怯んだら負けだと思いました。あとは入社日の調整でした。1ヶ月半後の秋も深まっていくそんな時期でした。それは、ちょうど1年前地獄のような苦しみを味わったそんな季節です。やっとここまで来ました。そんな気持ちでした。
そして、家に帰り妻に報告しました。年収が下がってしまうことについて残念がっているのを見て、「働けるだけで十分じゃない。きっとなんとかなるわ」そう言ってくれました。そうして私はASサポート株式会社にお世話になることを決意しました。
この社会復帰が決まったことをデイケアの仲間やスタッフに話をすると、大変喜んでくれました。とくに、ヨガの時間にいつもペアになっていた40代後半の男性からは、「それは鈴木さんの人柄ですよ。鈴木さんは私にとっての希望です。」と仰ってくださいました。
そうして入社日の前日、デイケアの帰りの会で私の就職を皆さんで祝っていただきました。
「皆さん本当にありがとうございました。皆さんがいたからこそ、私は回復できました。これからは、また社会に揉まれる日々になり、時には心が折れそうになるときがあると思います。でも、そのときは皆さんとここで過ごした日々を思い出します。この数か月は本当に私にとって重要な時でした。私は少し成長できたのではないかと思います。皆さんの温かい励ましを胸にこのデイケアを卒業します 。(※2)本当にまた疲れてしまったら戻ってくるかもしれません。でも、私には帰れる場所があるだけ、今度は少し強く生きられるそんな気がしています。皆さんもくれぐれもお体にはお気を付けになられて、お過ごしください。ありがとうございました。そして、いってまいります」
こんなご挨拶をしました。皆さんの暖かい笑顔と拍手で私は送られたのです。
アビスタポイント
※1:「できないこと」をきちんと素直に答えられたことが、ここではPOINTです。ここで無理をして「なんでもできます」と言っていたら、もしかしたら鈴木さんの採用は決定されなかったかもしれません。精神障がいの方を採用する企業の方は、採用する方の障がいについて正確に理解をしたうえで、一緒に働いていきたいかどうかを確認しています。「できないこと」を伝えることは、「できること」をアピールするよりも必要なことだといえます。
※2:ご家族の存在とデイケアによって「生活面」をきちんと整えられた鈴木さん。うつ病の方の社会復帰では、焦る気持ちをおさえて一歩ずつ「出来ること」を増やしていきましょう。一見遠回りにみえても、実は最短かつ最適な社会復帰のパターンといえるかもしれません