4章-うつ病と付き合いながら、社会復帰するポイント(3/7)
「うつ病」クローズにしての社会復帰のリスク
「うつ病」をクローズにしての社会復帰を行うときの条件を見てきました。クローズで社会復帰するということは、療養からいきなり就労に移ることを意味します。そして、クローズで働くならば当然のことながら、キャリア・年収に応じた成果が求められます。ここでは、「うつ病」をクローズにしての社会復帰のリスクについて考えたいと思います。
①調子が悪い時に休むことが難しい
前述したように「うつ病」は必ず調子の悪い時があります。その時に休むことが最大のリスク回避です。しかし、毎週のように調子を崩したり、週末になると疲れの蓄積で朝が起きられなかったりすることは、「うつ病」ではよくあります。「うつ病」をクローズにしてこのようなことが度々おこると、怠け者であったり、だらしない者という烙印を押されかねないリスクがあります。
②治療の継続が難しい
転職して働き始めた当初は、通院・服薬の継続などをすることが、再発防止には有効です。しかし、夜間診療を行っているクリニックばかりではありませんし、全く残業の無い勤務というのも難しいと思います。通院のために早退するなども度々ですと、その理由に窮する場面もあると思います。また、昼食後に服薬をしなければならないケースや安定剤を飲んだ後には車の運転を控えるなどの制約があります。
③仕事の負荷を調整してもらえない(質・量)
社会復帰の際にキャリアをアピールすると当然一定の仕事を与えられます。そのような場合、健常者として仕事をしている訳ですから、キャリアや年収に見合うだけの難易度の仕事です。「うつ病」になると適応力が落ちますので、病前に対応できていた難易度の仕事はできないのが普通でしょう。また、仕事の繁忙期には当然戦力として期待されていますから、残業対応なども行わなければならないでしょう。そうするとオーバーワークにどうしてもなりがちです。当然、再発のリスクが高まります。
④ 短期的な成果を求められる
転職したことがある方は分かると思いますが、キャリア採用で採用されるということは、新卒のようにじっくり育成を待つということはありません。転職の早い段階から、ある程度の成果を出してくれるものと職場では、期待されています。そのため、職場に慣れるということでもストレスがたまりますが、それに加えて成果を出すということも要求されるというのはかなりのプレッシャーになります。ストレス耐性が低下している「うつ病」の状態では病前ではなんでもなく簡単に出せていた成果を出すことも難しいため、心理的負担が大きくなります。
⑤ 不調を訴えることで周囲の不信感を誘い孤立する
ビジネスの世界では、体調管理も立派なビジネススキルです。頻繁に体調不良を訴えると仕事の戦力として見込みにくくなるため、どうしても周囲との軋轢は避けられない状況になります。その結果、一番恐ろしいのは孤立することです。人にはそれぞれ得意不得意がありますし、人間関係においても合う人合わない人がいるのが当然です。しかし、信頼できる人がいなくなってしまうことは、そのことだけでも十分に苦痛です。悩みや愚痴を言い合える仲間がいないことは、どんな仕事をするにしてもマイナスではないでしょうか。
以上が主なリスクであると思われます。こうしたリスクの根は「うつ病」という病気の性質である調子の波があることや、療養から就労へ急にシフトしても対応できないという避けられない問題が原因になっています。個人の心がけやスキルなどで解決できる問題ではないのです。
「うつ病」をクローズにして社会復帰をして、働き続けるということはこれらのことを基本的に一人で解決して行かなければならないということです。ここに「うつ病」を隠しながら働き続けることの難しさがあると思います。