2章-精神障がい者としての就活(3/7)

第3話 精神障がい者になる

2007年夏、就活の行き詰まりがいよいよ顕著になってきました。
これといって求人に申し込める案件もなく、かといって療養に専念しなければならないというほど体調は悪くありません。ただ、毎日デイケアに通って、絵を描いたり、コーラスで歌ったり、ヨガをしたりとなんだかお金の沢山ある有閑マダムのような生活です。確かに、デイケアで友達もできましたし、同じぐらいの年頃の人などもいたのでなんとなく気持ちは落ち着いていました。ただ、このままではいけないと、ひしひしと感じていました。
そんななか、就労プログラムで特例子会社の見学がありました。56人以上の従業員を持つ企業は、障がいをもっている従業員を従業員全体の1.8%以上(2007年時点 2013年4月1日より2.0%に引き上げ)雇用することが義務づけられています。特例子会社とは、雇用義務のある会社がその特例として障がい者のための特別な配慮をした子会社を設立し、その子会社に雇用されている障がい者を親会社や企業グループ全体で雇用されているものとして算定できるという機能会社です。私が見学にいったのは、ある大手人材関連企業グループの特例子会社でした。
恥ずかしながら、当初の障がい者の就労というのは、知的障がい者の方の作業所のようなイメージしか持っていませんでした。なんとなくコンブライアンス上仕方がなく雇っているというイメージです。ですから、仕事という仕事はなく、ひたすら単純作業を暗い倉庫のようなところでやらされているような先入観を持っていました。残念ながら、現在の日本ではまだまだ以前の私のようなイメージを持たれている方も多いのでないでしょうか。
しかし、私の誤った先入観は覆されます。見学した事務所で見たのはイキイキとして働く「障がい者」の姿でした。車椅子や杖の助けを借りながらも、普通にお仕事をされていました。自分がいかに根拠のない先入観を持っていたのかと、恥ずかしくなりました。
この事業所の見学後、責任者の方と面談する機会がありました。そこで「こちらでは精神の障がいの方は働いていらっしゃいますか」とお伺いすると、次のようなご回答を頂きました。「まだ実績としてはないです。しかし、精神の障がいの方も普通に就労できると思っていますし、当社グループの会長も大変関心を持っており、皆さんのデイケア施設を見学にいったこともあります。ですから、今後は採用を検討しているところです。」
もちろん、特例子会社という特殊性はあると思いますが、それぞれの障がいを認めながら、やれることはしっかりやっていく。そんな当たり前の世界が私の知らないところでしっかり根付いていることに喜びを覚えました。
そうして、障がい者になるという選択肢を検討するために、ドクターやカウンセラーに相談をすることにしました。ドクターは少々驚いてはいらっしゃいましたが、診断書を書いてくれることには快諾をしてくれました。また、カウンセラーの先生には、「鈴木さん、よくそのような気持ちになれましたね。しかし、焦らずに進めてください。」とアドバイスを頂きました。

そして36歳で私は精神障害3級を取得しました。これは私自身の就活戦略として、ひとつのオプションを手に入れることだったのです。決して後ろ向きな行動ではありませんでした。
最大にして唯一の目標、再発なき社会復帰の実現に向けて新たなステージに立ったのです。(※1)

アビスタポイント

※1:これを読まれているみなさんのなかにも、「障害者手帳」を取得することに大きな壁を感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。アビリティゲートに登録にいらっしゃる方からも、「障害者手帳取得のメリットとデメリットを教えてください」という質問をお受けすることがあります。ここで、鈴木さんは「再発をしないで、社会復帰できること(=働き続けること)」を最大にして唯一の目標とおいています。人生において大切なことは人それぞれ。障害者手帳を取得されるメリットとデメリットは、人によって感じ方が違うと思います。ただし、障がい者雇用枠で、配慮を受けて働こうと思った時、障害者手帳の取得は必要条件となります。鈴木さんはそれを理解したうえで、現在ご自身が持っている能力に加えて、「障害者手帳」を手にいれました。とても前向きですばらしい、障害者手帳取得の一例だと思いました。