「完璧」を手放したら、いい空気が流れるように

アビリティスタッフィング

これまで数々の企業で、経理や総務としてのキャリアを重ねてきたクボさん(49)。一時は病気によって「働く」ことから離れたが、現在は経理補助業務として週4日働いている。働く環境について「職場の方々に恵まれています」と話すが、聞いていると、クボさん自身も周囲が心地よく働くための心がけを欠かさない人柄が感じられた。

*オンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人よりご提供いただきました

業務を頼んでくれた人に寄り添う努力を

現在の就業先で働きはじめて5年。「異動してきた方から“あの書類どこにありますか?”と聞かれても、すぐに答えられるくらいにはなっています(笑)」と、頼もしい存在に。就業した当初は今より就業時間も短かったことやクボさんの体調面の考慮から、頼まれる仕事の量も抑えられていたそう。

「いただいた業務が完了して手が空いてしまうこともあったので、皆さんに“何かお手伝いできることはないですか?”とお声がけしていました。そうして少しずつ業務量が増えてきて、自分ができることも増えてきました。今は過去のデータのPDF化や書類の整理のほかに資料の作成を頼まれることも多いです。もともとはシステム開発から社会人歴が始まっているので作り出す作業も好きで。頼んでくださった方が求めている形に近い資料になっていたらいいなと思いながら作業しています」

どんな資料を求めているかは、資料の内容だけでなく、当然依頼してきた人によっても異なる。クボさんが考えるのは「人」に寄り添うこと。

「もともと人を観察するのが好きですし、誰かのためになりたいという気持ちも強いかもしれません。依頼してくださった方が嫌だなと思うようなことはしたくないですし、どういう方なのか意識して業務にあたっています。そう考えられるのは、今の職場の皆さんが本当に穏やかで気配りのできる方ばかりなので、自然と私も少しでもお役に立ちたいという気持ちになるんです」

「ジグソーパズル好き」は経理にも通じる?

「経理の仕事には成り行きで就いた感じではあるのですが、長く続けているのはやっぱり好きなのかもしれないですね。数字を確認して合わせていく作業がうまくいったときはミッションをクリアしたような達成感があります。普段ゲームはやらないのですが、思い出してみると子どものころからジグソーパズルが好きだったんですよね。モノクロでピースが多い難易度の高いパズルが完成した瞬間が本当に楽しくて。あのときの感覚と通じるものがあるのかもしれません」

クボさんのお話を聞いていると経理の仕事が心から好きで楽しんでいるのがわかる。病気療養で就業先を退職した数年後、再び「働く」ことを考えたときに「やりたい」と思った職種は、やはり経理の仕事だった。

「夫は“無理して働かなくてもいいよ”と言ってくれたのですが、これという趣味がないので仕事をしていないと時間を持て余してしまうなと思い(笑)。働き方を考えたときにアビリティスタッフィング*について知りました。ただいきなりは勇気が持てなくて、そのときは資料を取り寄せるのみで、最初は障害福祉サービスの就労継続支援B型に登録をして1日2~3時間、週3日くらいの就労から始めたんです」

就労継続支援B型事業所での就労が軌道に乗ってきて、クボさんの頭によぎったのが、やはり「経理の仕事がしたい」ということだった。

「就労継続支援では事務や経理は見つからなくて。さまざまな葛藤もありましたが、また経理で働くことができるならと一歩を踏み出すのを決めて、アビリティスタッフィングに登録しました。踏み出すまでにはかなり時間がかかりましたが、登録してすぐに今の就業先と出会って、停滞していたものが一気に流れ出したように感じました」

「いるのが当たり前」の夫が尊い存在に

登録後、すぐに出会ったのが現在の就業先。当初は1日5時間の就労からスタートしたが、最近になって1日6時間に延長。クボさんがさらなる大きな一歩を踏み出すにあたり、相談に乗ってくれたのはパートナーである夫。

「夫曰く、私は走り出すと周りが見えなくなるタイプなので、無理がないようブレーキを踏んでくれる存在です(笑)。常に穏やかな空気をまとっている人で、私の病気についても全面的に受け入れて、変に励ますこともなく動き出せるようになるまで待っていてくれました。それまでは当たり前にそこにいる存在だったのが、病気をきっかけに尊い存在に変わりましたね」

以前は「完璧主義だった」というクボさん。子育てや病気を経て、すべてが思いのままに行くわけではないと気づき、手放すことができたという。 「“こうじゃないといけない”とこだわりだすとキリがないですよね。そこで無理をしたり、まわりとぶつかったりして苦しくなるようならざっくりでいい。流れにまかせていけばいいと思い、いろいろなことを手放せるようになりました。病気をしてから家族や就業先の同僚などに助けてもらう機会も増えたので、気持ちや時間の余裕ができたぶん私もできる限りまわりの人たちを助けていきたいと思っています」 「他人は自分を映す鏡」と言われるが、クボさんのお話を聞いていると、まさにその通りだと感じる。クボさんがこれからも穏やかな人たちに囲まれて、仕事に打ち込む未来が想像できた。

アビリティスタッフィング

手軽に季節感を演出してくれる手ぬぐい


以前阿波踊りに参加していた経験から手ぬぐいを集めるように。大判のものは「子どもが生まれてから、季節にちなんだものを飾りたいと思い」カレンダーのように玄関に飾っている。ハンカチ代わりにも持ち歩いていて、外食時には飛び跳ね防止のエプロンに、肌寒いときは羽織ものとして、暑い時期には日よけにと、あらゆる場面で活躍してくれる。

晩酌ビール用のグラスは切子。電卓は30年ほど愛用していて「手が大きい私にちょうどいい大きめサイズ。検算をするときはパソコンで打ち込むより電卓のほうが早いです」