3章-うつ病と付き合いながら、働き続ける意味(3/6)

第3話 転機となった仕事

入社して数か月がなんとか経ちました。管理データベースのクリーニング作業も何とか見込み予定より早く完了ができました。

2008年の春。一つの転機が訪れました。今まで契約書などの機密文書は、すべて紙の状態でストレージに保管されていました。しかし、その業務も運用開始から数年がたち、社内のストレージスペースに限界が見え始めてきました。今後の資料の増加を考えると、現在の事務所では半年後にはオーバーになるという予想がされていたのです。この業務は、クライアントからの照会依頼にスピーディに対応することが要求されるため、外部倉庫への保管というわけにはいきませんし、車椅子トイレなどさまざまな障がい者雇用のための投資を行っている事務所を簡単に移ることも難しかったのです。
そこで書類をスキャナーで画像として電子ファイル化して、管理データベースと紐付けるという解決策を見出して行こうということになりました。
ちょうど、管理データベースのクリーニング作業が終わった私に部長から、「今回のスキームのプランを考えて欲しい」とのオーダーをもらいました。
そうです。面接時にお話しを伺っていた課題に、早くもチャレンジする機会がやってきたのです。もちろんこのような業務の経験はありませんでしたが、仕事を設計するということでは、コンサルティングで改革の実行フェーズの改革後の業務を設計していくことと同じです。クリーニング作業という単純作業で気持ちが萎えかけていた時だったので、それは大変やりがいのある仕事に思えました。

この業務では、以前に電子化というものを検討した経緯がありました。バーコードと文書管理システムを使った業務を検討しましたが、コスト対効果が出ないということで一度お蔵入りしていました。そこで、私が考えた業務はスモールスタートをイメージして、新たな投資をせずに今ある資産で業務を設計するということでした。この業務の設計ではほとんどが手作業で対応するため、人による作業というコストはかかりますが、毎月発生するストレージ代という固定コストを圧縮でき、保管を電子ファイルにすることにより検索性も高めることができました。
やり始めると実に頭がよく回り始めました。無くなって久しかったドライブ感とでもいうのでしょうか、どんどん気持ちが高まっていくことを感じました。業務フロー・作業内容の設計・導入スケジュール・役割分担などを現状の実務担当からのヒアリングをもとに設計して、それをフィードバックして進めていく、そんな作業ができるようになってきたのです。自分でも驚くほどの回復を感じました。
ただ、反省しなければならなかったことは、こうした業務設計などの仕事に没頭してくると、悪い癖なのですが、考え過ぎて眠れなくなることが昔からよくありました。今回もだんだん検討が具体化されてくるにつれ、いつでもそのことが頭のどこかにある感覚で、眠れなくなる日が増えていきました。そして、何日か起きることができなくなるまで疲れてしまったのです。最初に訪れた「再発」の危機でした。

しかし、周囲のサポートや厳しい時には休むことも仕事と割り切ることで、なんとか乗り切ることができました。人はなかなか悪い癖を直すことができません。特に仕事のやり方などは、長い年月をかけてだんだん自分のものにしていった背景がありますから、自分のやり方を変えられないのです。しかし、そのようなことを一つ一つ経験しながら、どういう兆候(眠れない・食欲がない・胸騒ぎがする等)が現れたら、注意信号なのかと理解していくことが、重要なのだと思いました。
「うつ病」になる前と同じ仕事の仕方をしていたら、間違いなく「再発」してしまいます。どのように働き方を変えていくか、それは試行錯誤を重ねながら見つけていくしかありません。また、どのような働き方をするかというのを、周りに十分理解してもらうことも大切です。