明日の就職へつなげる、病気との上手な付き合い方-前編
就労できるようになるためにはどのような準備が必要なのでしょうか
どんな仕事につきたいか、週何時間ぐらい働きたいか、職場の人数はどのくらいがいいのか、仕事を続けるために日々の暮らしでどういうことをしているか、そういうことを細かく確認してイメージすることが大事ではないかと思います。このような作業は一人で進めていくのはなかなか難しいので、就労支援の専門家や生活支援の専門家が時間をかけて聞いていき、明確にできるのではないかと思います。この作業をすることで、本人のモチベーションも高まってきます。また、次の段階では履歴書の書き方や面接の受け方なども大切な練習になりましょう。あるいは職場の見学を行ったり、企業の人事担当者の話を伺ったりなど、実際の職場の様子が肌身にわかるような体験が、準備性を高めると思います。
仕事ができる状況であるかということについて、従来の労働者雇用の専門家は、「自分の病気について理解が出来ている」、「病気を抱えながらどう日常生活を過ごせばいいのか、ある程度理解と経験が深まっている」などが前提であると主張します。こういうことももちろん重要ですが、それらはあらかじめ行うというよりも、「仕事をしよう!」という取り組みの中で同時に行うのが、モチベーションも高くて効率的に行えるように思います。このあたり、医療関係者が「仕事をする」という目標に対して、共に働いてくれることがこれから大切だと思います。私が属する国立精神・神経医療研究センターの病院デイケアでは、このような人々の役に立つようなプログラムをいくつか用意して、仕事につきたい人々に対する応援が医療現場でもスムーズに行われるよう、取り組みを始めています。
アビリティスタッフィングの活動についてはどう思われますか?
IPSの考え方で大事なのは、数多くの職場開拓や就労の機会を得ること、そして仕事をしてからも支援を受けながら継続して就労していくことです。実際にそこまでサポートし続けるというのは、福祉の世界でも制度上なかなか難しい領域ですが、「習うより慣れよ」ということは今後一層進めていく必要があるかと思います。
アビリティスタッフィングは、単に就業の機会を営業して開拓するだけではなく、企業や就労者を継続的に支援していく点で、大変画期的です。それもあって、今回、厚生労働省の就労支援の研究にも、参加してもらっています。
これまで精神障がいの方の就労というと、清掃、洗濯、皿洗いなどのいわゆるブルーカラーの仕事が多かったのですが、アビリティスタッフィングではホワイトカラーの仕事と結びつけようとしています。その分野はまだまだ未開拓の領域なので、障がいを持っている方にとっては希望につながるのではないでしょうか。最近はデータ入力や、ファイル管理、あるいは総務一般などの分野でも活躍する人たちも増えており、可能性は高いと思われます。