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専門家インタビュー

精神障がい者の就労の意義を見つめなおす 伊藤順一郎博士 医師、(精神医学を専門とする)医学博士。独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 社会復帰研究部部長。特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構(コンボ)共同代表理事。

「精神障がいがあっても仕事をしたい!」そんな意欲をもった精神障がいの人たちが、いかに就労し、生きがいを見つけていくのか-。治療と研究の最前線を歩く精神科医の伊藤順一郎先生に、いまの精神障がい者雇用を取り巻く現状についてお話を伺いました。

「就労支援が支える精神障がい者の新しい働き方」1

精神障がい者の就労が近年注目を集めていますが、先生が就労支援の研究を始められたのには、どのような背景があるのでしょうか?

人が人として生きていく上で、いうまでもなく「仕事」は大変重要な要素です。今までは、精神障がいをもっていると仕事に就くのは難しい、あるいは福祉的施設の簡単な就労しかできないだろう(我慢してもらうしかない)というのが精神医療サイドの見方でした。

しかし、精神障がいを持つ人たちは、「働きたい」「自分で収入を得たい」という声が昔からとても強く、多くの調査で「働きたいですか?」という問いに対して、「はい」と答えた方が6割以上という結果となっています。こうした人たちが就労をして普通の市民生活を送るために、医療や福祉、その他の社会資源を組み合わせた支援システムづくりが重要になってきています。単に病院などの閉じた世界での支援ではなく、医療、生活支援、そして就労支援といった多様な支援が地域社会にあって、それらがつながりあいながら支援を構築するということが大事だということです。

先生がご専門とされているIPSモデルについて、教えていただけますか?

1990年代のアメリカで一つの潮流が生まれました。それが就労支援プログラムIPS(Individual Placement and Support:個別職業紹介とサポート)という取り組みです。

画像:専門家インタビュー1

IPSというのは、就労支援の専門家が、生活支援の専門家、医療支援の専門家とチームを組んで、精神障がい者の就労を支えるプログラムです。従来の病院を中心とした治療的概念から離れ、地域社会で精神障がい者をいかに支えていくかという包括的概念を持っているのがIPSの特徴です。

この考え方の背景には、「就労=治療からの自立」という完治を前提とした思想からの脱却があります。また、作業所などで十分訓練を受けたうえでないと就職はできないという、訓練中心の就労支援からの脱却でもあります。支援を受けながら就職をして、障がいを抱えながらも、その現場で必要な技能を身につけ、就労を続けていくことが出来るという、精神障がいをもった人々に対するスタンスの変化がIPSにはありました。

たとえば身体障がいの人が、車椅子や義肢を使うことによって仕事ができるようになるというのと同じで、精神障がいの人も企業と本人の間に就労支援の専門家がはいることで就労が継続可能になります。就労支援の専門家が病気や障害を持っているご本人と、企業が人に求めていることの間に入り、いわば通訳をすることによって、就労の継続を可能にするという発想が支援方法の真ん中にあります。

精神障がい者にとって仕事ができるということは非常に価値があることです。それは、本人がふつうの企業で職を得ることによって、自分の自尊心を高めることが出来るということが何よりでしょう。健常者に交じって仕事をすることにより、お互いがお互いを知るということもできます。けれど、そのためには本人や企業にとって、継続して相談にのってくれ、支援を提供してくれる専門家がいることがとても重要です。そのような人がいてこそ、危機を乗り越えることもでき、企業にとっても有用な人材が確保でき、win-winの関係を構築することが出来るわけです。